〜 川尻達也 vs ビトー・ヒベイロ 〜
☆ スペシャルレポート ☆
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◆第四試合◆ (5分3R) |
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× | 川尻 達也 | vs | ビトー・ヒベイロ | ○ |
(総合格闘技TOPS) | (ノヴァ・ウニオン) | |||
判定 3−0 |
「頂を求めて」 |
12月初旬、関東一円が雪に覆われた。 純白に染められた道場に足を踏み入れると、道場生のいつもの熱気が、冷え切った体を一瞬にして溶かしてくれる。いつもと変わらない、狭くて散らかってはいるが、いつ来ても心地よい空間だ。道場内を見渡すと、1人殺伐とした緊張感を漂わせている若者がいる。余りの鬼気迫る表情の為、時には怖さすら感じさせる。張り詰めた緊張感と周りの道場生の気遣いから、試合を控えているということはすぐに見て取れる。その若者とは、そう“川尻達也”である。 昨年の暮れには、クラスBシューターでしかなかった彼が、修斗一年の総決算と言える12月14日のNKホール大会に出場する。修斗を体現できるトップシューターにのみ出場が許される大会に、川尻は当然の如く出場する。今年に入って5戦5勝、ウェルター級・初代新人王にも輝いた彼は、今年最も成長した選手として、専門各紙で取り上げられる程にまでなっていた。更に付け加えれば7連勝中であり、1つの判定を挟んで4つの一本勝ちと2つのTKO勝ちと言うスーパーレコードを残している。 しかし、周囲からの称賛の声に反して、川尻はある種の飢えを感じていた。それは強い者と闘いたいという、格闘家としての素直な欲求。特にクラスAに上がり、ランカーになってからの試合は、対戦相手よりはむしろ、格下相手に負けられないというプレッシャーとの闘いであったのも事実。結果的には、“負けられないプレッシャー”に押しつぶされる事無く戦い抜いたことで、精神的にまた1つ成長した。そして、新人王トーナメントを終えた川尻の視線は自然と上を意識する様になる。 試合後のインタビュウや専門誌には、佐藤ルミナVSタクミの勝者かシャオリン、とにかく世界的に有名な選手と闘いたい、と初めて自己主張をして見せた。元来、勝者にのみ発言権が在ることを理解している彼は、これまで強者との対戦する機会を、力を蓄えながらジッと待っていたのだろう。 結果、NKホールでの川尻の対戦相手は柔術界のパウンド・フォー・パウンドとまで呼ばれ、総合の舞台でも5戦5勝の戦績を誇るビトー“シャオリン”ヒベイロに決定した。川尻にとって初めて触れる世界水準が、シャオリンである。しかし、川尻に不思議と悲壮感は無かった。むしろ、強いと言われている相手に対し、全力でぶつかれる喜びすら感じていた。今まで出し切っていない全力を、シャオリン相手なら出すことが出来る。川尻は自分の可能性に期待せずにはいられなかった。 |
12月13日。後楽園ホールでは前日計量が行われていた。川尻の目の前に、あのシャオリンがいる。川尻は高ぶる気持ちを抑えるのに精一杯だった。決して気後れしている訳じゃない。むしろ、勝つ自信がある。ただ11月後半に念願のシャオリン戦が決まってからというもの、川尻のスイッチは入りっぱなしなのだ。早く闘いたくて、早く殴りたくてウズウズしているのだ。 計量を無事に一発でパスすると、陣営一同もホッと胸をなで下ろし、足早に会場を後にした。明日の決戦に備えて、やるべき事はやって来た。川尻は帰りの車に揺られながら、TOPSに入門した頃をなんとはなく思い出していた。漠然と強くなりたいと思い、初めて道場に訪れたとき、マッハが練習をしていた。そして強さに憧れた若者にとって、マッハは一番身近なヒーローとなった。川尻は自分がシューターとして期待されるようになった今でも、マッハのようになりたい、そしていつかマッハを越えたいと言う思いは抱いている。 ただ、今の川尻のモチベーションは“強くなりたい”“マッハを越えたい”という単純な想いだけでは無くなって来ている。勝ち星を重ねれば重ねる程、周りからの応援を感じるようになっていた。道場の仲間もトコトンまで練習につき合ってくれる。家族も応援してくれている。いつの間にか応援HPなるものも出来ている。みんなの声が聞こえる度に、川尻のやる気は加速していた。 “応援してくれる人の為にも、明日は絶対に勝つ。” それは明日の試合に全身全霊を掛けるという決意の表れであった。 |
翌12月14日。ついに、世界中の総合格闘家が“川尻達也”を知る日が来た。彼にとっても、人生のターニングポイントになることは間違いない。観客としては何度か来たことのあるNKホール。しかし、選手としては初めてだ。キャリアのほとんどが下北を占める川尻にとっては“大きい会場”ただそれだけで、わくわくしてしまう。世界でもトップクラスの選手達に混じり、薄暗いリングの上でウォームアップを開始する。入念に柔軟から入ると、続くシャドーで体のキレを確かめる。セコンドも努める石田光洋を相手にしばらくレスリング。そして打撃のマススパー。最後にタックルの対処法をチェックし終了。リングの感触を体に覚えさせ、控え室に戻った。 リング上で第3試合のフェザー級ランカー対決が行われている頃、川尻は入場ゲートの裏で目をつむり静かに時が過ぎるのを待っていた。その間、リング上では信じられないような勝負の光と陰を映し出していた。ランキング9位の塩沢が2位の池田をメッタ打ちにする姿。結果、塩沢は初のTKO勝ちというビックアップセットを演じ、ランク2位の座まで手に入れてしまった。今更言うまでも無いが、これが真剣勝負。そして、本当に何が起こるか分からないのが、修斗のリングである。そんな戦場に向け、いよいよ川尻は歩を進め出したのだった。 入場曲が聞こえると同時に姿を現したシャオリン。表情は全くの無表情。この人にとって闘いというものは、そう特別なモノでは無いらしい。気合いを入れるとかの類は必要としないのだろう。これぞ、達人の極みか。 川尻はというと、出てくるなり雛壇の中央で立ち止まり、会場を左・右と軽く見渡してからリングへ進みだす。前回のものとは違う曲をセレクトしたようだが、いつも通りの強気で落ち着いた表情をしている。川尻はこの大一番を気負いも無く、入場から堪能しているように見える。 |
1R。川尻の出がけに、セコンドの石田が背中を叩き気合いを送り込む。シャオリンの差し出した宣戦布告の挨拶を払いのけた川尻。川尻はそのままリング中央に陣取り、打撃の隙を狙っていく。まずは、右ストレートを出してみる。シャオリンに怯んだ様子は無いが、ガードの仕方は上手く無い。次にワンツーを出してみると、これはバックステップで交わされた。ファーストコンタクトを終えて、川尻は先に打撃を当てたいと想った。これは、試合前から考えていた事だが、やはり打撃に一日の長があるのは自分の方だと確信を得たからだ。ただ、現実はシャオリンの素早いタックルをがぶる形になっていた。相手は百戦錬磨。川尻が感じたアドバンテージを早速潰しに来たわけだ。 ただ、ここまでは練習通り出来ている。レスリング歴の長いシャオリンのタックルを切り、頭と左足を抱え丸め込んでいるのだから。しかも、相手の首を抱え込んだまま右ヒザを叩き込むと同時にひっくり返すと言う荒技が炸裂する。普通なら完全に流れを掴めるはずである。ただシャオリンは、実際に肌を合わせている川尻をはじめ、観ているもの全ての常識を越えているらしい。シャオリンにとって下になるという事は、ピンチでは無くアタックの第一歩だったのだ。 下から素早く伸びてくる足が三角形に巻き付くと、川尻は豪快に持ち上げスタンプする。川尻のパワーや反応の良さもどうやら観ているものの常識を越えているようだ。始まりの1分間でとてつもない実力者同士の対戦だと気づいた観客は、2人の怪物から目が離せなくなっていった。 川尻は得意の上を取りながら、下からの執拗な攻撃に防戦一方になっていた。三角をはずしたはずが、すぐに左腕を絡め獲られていた。日本人が相手なら、隙を見てパンチも打ち込めるのだろうが、シャオリンはそれを許してくれない。両足を巧みに使い川尻のバランスを崩すと同時に、腰を起点に左右に体を振ることで、左腕を獲られまいと堅く結んだ右腕とのロックに隙間を作っていく。アームロックを獲るまでの崩しが延々と続けられる。 既に開始3分の攻防で川尻は未知の領域へ足を踏み込んでいた。柔術という技術の奥深さに、ずるずる引きずり込まれて行ったのである。川尻は左足まで使って、アームロックを防ごうとしたが、必死のデイフェンスも叶わず、肘関節を伸ばされてしまった。鈴木レフェリーがキャッチを宣告すると同時に、シャオリンは左腕を起点にスイープまで成功。マウント状態からのストレートアームバーに万事休すかと思われたが、川尻は強引に左腕を捻って関節地獄から逃れたのだ。 実際タップする程の痛みは無かったが、明らかにポイントは獲られていた。しかも、試合開始からテイクダウンまで完全に自分のペースで試合を作れたはずなのに、いつの間にか極められかけていた。判定のポイントなんかより、川尻にとっては上を取って起きながら、ダメージを与えるようなパウンドが出来なかったことが強烈に効いた。 |
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